母の執念はやはりすさまじかった。令嬢同士の力比べは、驚くほど彼女が思い描いた通りのシナリオで進んでいく。
(なぜ妃に剣術の腕を求める? 領地経営やら農業やら書類さばきやら、そんなのは妃の仕事じゃないでしょうに)
日々、母から叩き込まれた技術や知識を披露するよう求められ、私は大きく首を傾げた。
真面目なお話、妃にそういった能力は必要ないと思う。
国民が親しみを持てる美貌があって、式典関係がそつなくこなせて、教養とコミュニケーション能力があればあとはなんとでもなる。
本来、書類っていうのは文官たちが『あとは印鑑を押すだけ』の状態に仕上げてきて然るべきだし、あくせく働く立場ではない。上に立つ人間が『これをやろう』と思いつきで物を言えば、下で働く文官たちはどんなに忙しくとも断ったり反対することはできないんだし、かえって気の毒だとも思う。
「……クラウディアの母親は本気で妃になりたかったんだな」
ふと私の隣でユリウス様がボソリと呟く。彼は呆れたような感心したような表情で、私のことを見つめていた。
「そうですよ。私にはどうしてそう思うのか、ちっともわかりませんけどね」
ヴァイオリンの弦を弾きつつ、私は大きくため息をつく。
妃になんてなりたくないのに――どう足掻いても、自分の想定と真逆の結果を残してしまう。それもこれも、全部ユリウス様のせいだ。
(なぜ妃に剣術の腕を求める? 領地経営やら農業やら書類さばきやら、そんなのは妃の仕事じゃないでしょうに)
日々、母から叩き込まれた技術や知識を披露するよう求められ、私は大きく首を傾げた。
真面目なお話、妃にそういった能力は必要ないと思う。
国民が親しみを持てる美貌があって、式典関係がそつなくこなせて、教養とコミュニケーション能力があればあとはなんとでもなる。
本来、書類っていうのは文官たちが『あとは印鑑を押すだけ』の状態に仕上げてきて然るべきだし、あくせく働く立場ではない。上に立つ人間が『これをやろう』と思いつきで物を言えば、下で働く文官たちはどんなに忙しくとも断ったり反対することはできないんだし、かえって気の毒だとも思う。
「……クラウディアの母親は本気で妃になりたかったんだな」
ふと私の隣でユリウス様がボソリと呟く。彼は呆れたような感心したような表情で、私のことを見つめていた。
「そうですよ。私にはどうしてそう思うのか、ちっともわかりませんけどね」
ヴァイオリンの弦を弾きつつ、私は大きくため息をつく。
妃になんてなりたくないのに――どう足掻いても、自分の想定と真逆の結果を残してしまう。それもこれも、全部ユリウス様のせいだ。



