「私……もう嫌なの。国とか魔獣のこととか、聖女としての私とか、妃としての責務とか、そういうことをなんにも考えずにのんびりしたい。好きなだけ眠って、好きなだけぼんやりして、好きなものを好きなだけ食べて、嫌な言葉の聞こえない場所にいたいの。もう二度と、あんな場所に帰りたくない。あんなふうに嫌われるのも、蔑まれるのももう嫌だ!」


 これまで無理やりおさえつけてきた負の感情が爆発する。テオはそれを真正面から受け止めてくれた。「わかった、叶える」とテオが言うと、リゼットはことさらテオにすがりつく。


「それからね、テオ、私の名前をもっと呼んで。聖女じゃなくて、王子妃でもない、ただのリゼットに戻りたい。……テオのお嫁さんになりたい」

「リゼット」


 彼女の名前を呼びながら、テオが彼女を抱きしめる。


「私、ただ幸せになりたいだけなの。……幸せになりたい」

「うん。……絶対幸せにする」


 それからテオは、リゼットの願いを受け止め続けるのだった。