「これまで新聞におまえの名前なんて一度たりとも出ていない。別に、聖女じゃなければ浄化がまったくできないわけではないし、国民たちは俺か聖騎士団のおかげだと思っているだろう。加えて『おまえが聖女としての力を失った』と記事を書くよう、記者に頼んでおいた。明日には国中に報せが届くはずだ。そうなれば、僕がリゼットと離婚をしたからといって、文句を言うような人間はいないだろう。むしろ、役立たずを王族から追い出せてよかったと喜ぶはずだ」


 満面の笑みを浮かべるルロワにリゼットは開いた口が塞がらない。


(だけど、これで……)


 ルロワから離れられる。聖女の任から降りることができる。こんなチャンス、二度と来ないかもしれない。
 もちろん、リゼットが離れたあとのことは心配だが、それを考えるのは彼女の仕事ではない。

 リゼットは胸をおさえながら、ゆっくりと静かに頭を下げた。


「承知しました。――これまでお世話になりました、殿下」

「まったくだ。まあ、故郷まで送り届けるぐらいのことはしてやろう。ありがたく思うがいい」


 ルロワはそこまで言うとニヤリと上機嫌に口角を上げる。それから高笑いをしながら部屋から出ていった。