(私には聖女である資格も、王子妃である資格もないわ)


 聖女になると同時に己の欲など捨てたと思っていた。けれど、本当はちっとも捨てられていなかったらしい。

 テオがそばにいてくれたから、自分の本心から目を背けられていただけ。彼がいなくなった瞬間リゼットのすべてが崩れてしまう――もう二度と立ち上がれないだろう。


(こんな欲にまみれた聖女なんて、存在しちゃダメだわ)


 聖女とは常に清廉潔白であるべきだ。誰かを羨んだり嫉妬したり、なにかをほしがってはいけない生き物だというのに。


「リゼット、早くこちらに来い。まったく……こんな場でボーッとするな」

「……申し訳ございません、殿下」


 夫のあとを追いながら、リゼットはキュッと唇を引き結んだ。