(心に決めた女性)


 そんな話、一度も聞いたことがなかった。いつも一緒にいた気でいたのに、そうではなかったのだろうか?

 一体いつ、どこで知り合ったの? どんな女性? ……そう尋ねたくなるのをグッとこらえ、リゼットは前を向き続ける。


 リゼットにはリゼットの人生があるように、テオにはテオの人生がある。彼がどんな人と出会おうが、恋に落ちようが、大切にしようが、リゼットになにかを言う権利はない。


「そうか……! それはよかった。ちっとも女っ気がなくてつまらないと思っていたが、おまえも男だったんだな」


 ルロワはそう言って上機嫌に笑っている。けれど、リゼットはまったく笑えなかった。これから夜会で、ルロワの妻としてきちんと振る舞わなければならないとわかっているのに、心が痛くてたまらない。