(テオが結婚……)


 心臓がバクバクと嫌な音を立てて鳴り響く。

 同じ孤児院で育ったテオは、リゼットにとって兄のような存在だった。いつだってそばにいてくれたし、リゼットが泣けばすぐに駆けつけてくれた。町のいじめっ子たちから守ってくれたり、野花を集めたブーケをくれたり、両親のいる子が羨ましくて泣いているときには『俺がいる』と抱きしめてくれたこともあった。

 リゼットが聖女に選ばれたときだってそうだ。

 彼女が王都に連れて行かれると同時にテオは騎士団に入団をした。慣れない王都、城での生活に加え、聖女・妃としての教育、ルロワの冷たい態度に傷ついていたリゼットにとって、テオの存在は救いだった。再会を果たしたときにはワンワンと声を上げて泣いたものだ。


『泣かないでください。俺がそばにいますよ、聖女様』


 とはいえ、あのときはテオの気持ちが嬉しかったと同時に、彼から『聖女様』と呼ばれたことに、少しだけ傷ついてしまったのだが……。



「殿下、その点はどうかご心配なく。俺にはもう、心に決めた女性がおりますので」


 と、テオが言う。リゼットの胸がことさら強く痛んだ。