「そうね……しいて言うなら、もう一度テオに『リゼット』って名前で呼ばれてみたい、かな」

「え?」


 八年前、十四才で聖女に選ばれて以降、テオからは『聖女様』と呼ばれている。四歳年上のテオはリゼットが聖女になると同時に騎士団に入り、叩き上げで小隊長にまで上り詰めた。
 けれど、二人の間には超えられない身分の差ができてしまった。聖女であり、王子妃であるリゼットの名前を呼ぶことなど、到底許されるはずがない。


「それは……よかった。聖女様は案外欲深いのですね」


 テオが笑う。リゼットは思わず目を細めた。


「ええ、そうよ? 夢は大きく。そうしたら、いつか神様が叶えてくださるかもしれないでしょう?」

「――そうですね」


 テオの返事を聞きながら、リゼットはギュッと胸をおさえた。