「平気じゃありません。……やはり、俺が同行するべきでした」

「テオ」


 リゼットが急いで顔を上げる。
 テオは黒色の短髪、紫色の切れ長の瞳を持つ、たくましく美しい男性で、額には大きな傷跡がある――リゼットを守った際にできたものだ。彼の姿を見た瞬間、リゼットはホッと息をつく。ようやく心の底から安心することができた。


「相変わらずテオは心配性ね。ルロワ様と出会ってもう八年、結婚してから四年も経つんだもの。いい加減慣れたから大丈夫よ」

「――けれどその間、俺はずっと気が気じゃありませんでした。聖女様の気持ちを思うと、あまりにも辛く、苦しくてたまらなくなります。……聖女様、誰かに傷つけられることに慣れる必要などありません。もっと自分を大事になさるべきです」

「テオ……」


 リゼットの瞳がほんのりと潤む。彼女はうつむき、ギュッと目をつぶったあと、テオに向かって明るく微笑みかけた。