(おわった……)


 よかったとため息をつき、リゼットは大きく脱力する。
 ルロワと会話を交わすことが、彼と顔を合わせることが、強大な魔獣と対峙するときの何倍もおそろしい。すり減ってしまった神経をなだめつつ、リゼットはちらりと後ろを振り返る。


「聖女様」


 すると、少し離れたところから声をかけられた。白と金の騎士服に身を包んだ精悍な男性たち。彼らはリゼットとともに魔獣を討伐している騎士団のメンバーだ。


「お怪我はありませんか?」

「平気よ。いつもどおり少し嫌味を言われただけ。さっさと解放してくれてよかったわ」


 ルロワのリゼットいびりは、長ければ半日にも及ぶことがある。彼の虫の居所が悪いときなどは最悪だ。平民――孤児であることや素朴な容姿、真面目な性格……。彼はリゼットのすべてが気に入らないらしく、それらをひとつひとつ丁寧に挙げ連ね、リゼットが傷ついているのを見て喜んでいるのだ。

 そのくせ、公の場や他の人間の前では、リゼットを褒め称え、いい夫のふりをするのだからたちが悪い。

 このため、彼がリゼットや騎士団の功績を奪い取っていることを、人々は知る由もなかった。