「……なんだリゼット、まだいたのか? もう用事は済んだだろう? ……ああ、それともマリーのことが羨ましいのか?」


 ルロワはそう言うとちらりと隣の女性を見てから、リゼットの元へとやってくる。


「いえ、そんなことは……」


 まったく、と付け加える暇すら与えられず、リゼットの顎がグイッと乱暴に持ち上げられた。


「平民風情が……聖なる力を授かったからと言って、僕からの寵愛まで受けられると思うなよ?」

「私、そんなつもりじゃ…………」

「まったく『聖女と王族が結ばれれば国は安泰』だなんて世迷言に巻き込まれたこっちの身にもなってほしいね。おかげで第二王子であるこの僕が、君みたいなつまらない女を正妃に迎える羽目になってしまった。本当に忌々しい」


 盛大なため息をつきながら、ルロワがリゼットを突き飛ばす。彼女が痛みに顔を歪めるのを見て、ルロワは満足気に微笑んだ。


「まあ、一応感謝はしているよ? 君のおかげで僕はこの国の英雄だ。このまま討伐を続けていけば、いつか兄さんではなく『僕』を王太子に、という声が大きくなるだろう。その日が来るまで、せいぜい身を粉にして頑張ってくれよ、聖女様」


 高笑いを聞きながら、リゼットはルロワ――夫のもとをあとにした。