数日後、わたしはアイラのもとへ向かった。
 ブレディン様との婚約からすでに二週間。おそらくはもう事情を聞いている……と思う。


(しかし、一体どんな顔してアイラに会えばいいんだろう?)


 アイラからすれば、わたしは横からブレディン様をかっさらっていこうとしているヒールだもん。会ってすぐに罵倒される可能性だってゼロじゃない。……いや、アイラは決してそういうタイプじゃないんだけどさ。


「ごめんください」


 アイラの実家は、貴族にしては小さな邸宅だった。漫画で見たのとまったく同じ。こんなときだけれど、なんだか感動してしまう。

 ややして、アイラがわたしたちを出迎えてくれた。アンセルが事前に訪問の連絡をしてくれていたからか、お茶菓子まで準備してある。多分だけどこれ、アイラの手作りだ。推しの気遣いに感激するやら、申し訳なく思うやら――後者のほうが若干強い。


「ありがとうございます。急にお邪魔してすみません」

「いえ、そんな。私のほうこそマヤ様には申し訳なく思っておりましたのに、わざわざご足労いただいてしまい……」

「申し訳なく?」


 一体なにが? とわたしが思案するまもなく、アイラは大きく頭を下げた。