「しかし、ブレディン様の立場を思えば、そう言うしかなかったのでしょう」

「え、なんで?」

「グアダルーペ領は先日、大規模な水害に遭われましたから」

「そんな……」


 知らなかった。お父さまやアンセルはわたしにそういうことを教えてくれないんだもの。『マヤは知らなくていい』なんて言って、わたしを除け者にするんだから。


「そっか……それで多額の資金援助を必要としているのね。だからわたしと婚約を」

「そうです。もしも平時であれば、ブレディン様も婚約を受け入れてなかったかもしれません」


 アンセルの言葉に、わたしは思わずうつむいてしまう。


(見損なったなんて思って悪かったな)


 ブレディン様にもちゃんと事情があったのに。
 しかし、だったらなおさら、わたしはどうしたらいいんだろう?


 ブレディン様と偽装結婚して、アイラを実質的な妻にするとか。
 ――ダメだ。そんなの少女漫画のハッピーエンドじゃない。


 でも、最悪そういう道も検討しなきゃならないかもしれないのかな? わたしは別に自分自身が幸せな結婚をしているところとか、あんまり想像したことがなかったし。……そう思いつつ、ちらりとアンセルのことを見る。なんでかチクッと胸が痛んだ。