「……なるほど。それでお茶会を早々に退室なさったのですね?」

「信じてくれるの?」

「もちろん。他でもないお嬢様の話ですから」


 アンセルはそう言って穏やかに微笑む。わたしは思わず泣きそうになった。


「ありがとうアンセル。わたし、ブレディン様と結婚するなんて絶対に無理。彼にはアイラがいるし」

「アイラ……もしかしてアイラ・ブバスティス男爵令嬢のことでしょうか?」


 アンセルが尋ねてくる。わたしは勢いよくうなずいた。


「そう! そのアイラ! さすが、アンセルはなんでも知っているわね」

「もちろん。お嬢様のためですから」


 そっと瞳を細められ、わたしはまたもやドキリとする。

 アンセルは情報通だ。貴族たちの名前やプロフィール、領地の状況はもとより、彼らを取り巻く複雑な人間関係にもかなり詳しい。誰と誰が不倫をしているとか、税金絡みの不正をしているとか――そういうこと。それをわたしのために調べているっていうんだから、実に献身的な執事だと思う。