「これでファビアン公爵との婚約話が完全になくなったんですもの。もうお二人が恋人のふりをする必要はなくなりましたよね? ね?」

「え? どうしてロミーがその話を……」


 アンベール様が私を見る。


「そうか、ロミーは僕たちのことを知っていたのか……」

「はい! ラナ様から教えていただきました。だって、お二人が恋人だなんてあまりにも不自然だったんですもの。だけど、それも今夜でおしまい。これでアンベール様はラナ様から解放されますね!」


 ロミー様はそう言ってアンベール様の腕に抱きつく。気まずさと羨ましさから、私はすぐに視線をそらした。


「あーーラナ様ったら! そんな顔しちゃって。だから、わたくし事前に申し上げたでしょう? 『勘違い、しちゃ駄目ですよ』って。アンベール様は優しいから。他の誰が相手でも同じことをしたのに、自分は特別なんて思ってしまったんですよね? 気持ちはとってもよくわかります。だけどそれ、勘違いですから」

「……わかっているわ」


 夢のような時間はもうおしまい。私たちの関係は元通りに――ただのライバルに戻る。

 だけど、アンベール様のおかげで私は夢を取り戻すことができた。……幸せなひとときを過ごすことができた。これ以上を望んだりしたら罰が当たる。――ちゃんとわかっているのに……。