「それなのに、アンベール様は『もう僕にくっついたら駄目だよ』なんておっしゃるし、わたくしあまりにも悲しくて……苦しくて。お願いです。なにか事情があるなら教えていただけませんか? そうじゃないと、わたくし……」

「――絶対、内緒にしてくれる?」


 彼女の気持ちは痛いほどにわかる。私は恋人のふりをすることになった経緯をロミー様に打ち明けることにした。


「まあ、それで……」

「アンベール様は夢への道を閉ざされた私を気の毒に思ってくれたんだ」

「それでは、お二人の関係は公爵様との結婚について決着がつくまで、ということなのですね?」

「……うん。そうなると思う」


 別に、終わり方を約束したわけではないけれど、事の経緯を考えたらそれ以外ありえないだろう。


「よかったぁ! 安心してしまいました!」


 私の気も知らないで、ロミー様は無邪気に笑っている。「そうだね」ってこたえながら、私はそっと胸を押さえた。


「それじゃあラナ様、お二人はあくまで恋人のふりをしているだけってことで。……絶対に勘違い、しちゃ駄目ですよ」


 ロミー様が満面の笑みで釘を刺す。


「わかってるわ」


 元より勘違いなんてしようがない。手のひらに爪が強く食い込んだ。