私たちが『恋人だ』という話は、瞬く間に学園内を駆け巡った。


「嘘でしょう?」
「信じられない」
「アンベール様はロミー様と結婚するのだとばかり思っていたのに」


 どこへ行ってもそんなヒソヒソ話が聞こえてくるもので、私は内心苦笑してしまう。
 こうなることは事前に予測していた。……というか、ずっと前から妄想していた。もしもアンベール様と想いが通じ合ったら、こんなふうになるんじゃないかって。

 アンベール様はみんなの憧れだし、彼がロミー様と仲がいいのは周知の事実だ。それなのに、もしも私が選ばれたら――そんな想像をしたのは一度や二度ではない。

 アンベール様と手を繋いで、互いに名前を呼び合って。少しでも一緒にいたいからと二人で会う約束をする。まるで夢みたいなお話だ。だけど今、それが現実になっている。唯一妄想と違うのは、想いが通じ合ったわけじゃないっていう点だけ。


「――ラナ様、少しふたりきりで話をさせていただけませんか?」


 だけど、夢はあくまで夢でしかない。
 ひどく思い詰めた表情のロミー様から呼び出され、私は校舎の裏へと向かった。


「アンベール様からお聞きしました。二人がお付き合いをしているって。本当なんですか?」


 内容は予想していたとおり、アンベール様との関係についてだ。


「正直、わたくしは今でも信じられなくて……だって、アンベール様はいつもわたくしを特別扱いしてくださるし、とっても優しいでしょう? ラナ様に対してはあんまりっていうか、全然そんな感じじゃありませんでしたし」

「……うん、そうだね」


 周りからもそんなふうに見えていたんだ。ちょっぴり凹みながら、私は小さくため息をつく。