「ありがとうございます、アンベール様! 本当に、なんとお礼を言ったらいいか」


 学園に戻ると、私はアンベール様に頭を下げる。彼はそっと目を細めつつ小さく首を横に振った。


「僕はなにも。結婚についてはあくまで一旦保留になっただけだし」

「昨日は『これで決定だ』と取り付く島もなかったんだもの。本当に、ありがとう。アンベール様のおかげだわ」


 これからどうなるかはわからないけど、上手くいったら夢を諦めずに済むかもしれない。それに、恋人のふりをしている間だけはアンベール様の一番近くにいられるし。


「学園でも、恋人のふりは続けよう」

「え?」


 アンベール様はそう言って私の手を握る。体温が一気に高くなった。


「お父様は『様子を見る』と言っていただろう? 万が一嘘だとバレたら話が上手くいかなくなるかもしれない。学園内の噂なんかもお調べになるかもしれないし」

「あっ……そう、ね。それはそうだけど、アンベール様はそれでいいの? 他の人に勘違いされたら」

「別に、構わないよ」


 柔らかな笑み。見ているだけで、なんだか涙がこぼれそうになってしまう。


「頑張ってお父様を説得しよう」

「……うん」


 返事をしながら、私はアンベール様への想いが加速するのを感じていた。