(いいなぁ……)


 と、ついつい漏れ出た己の本音を振り払いつつ、私は二人から視線をそらす。


 私はずっと、密かにアンベール様に恋をしていた。
 彼が成績をキープするために裏でものすごい努力をしていると知っているし、とても優しくて穏やかな人だもの。惹かれずにはいられなかった。


(もしも成績争いなんてしてなかったら)


 アンベール様はもっと私に優しくしてくれたのかな? ロミー様みたいな可愛気があったら……素直で女性らしかったら、頭を撫でてもらえたのかな? ――私を好きになってくれたのかな?


(無理だろうな)


 だって私はあんなふうにはなれない。自分でも馬鹿だなぁって思うけど、できる気がしないんだもん。
 それに、私たちはライバルだし。……いや、そう思っているのだって私だけかもしれないけど! 彼から女性として見てもらえたことなんてないと思う。私の気持ちだって当然知らないだろうしね。


「よかったらお祝いをさせてください! お父様からいい店を教えてもらったんです」

「そんなことしなくていいよ」

「わたくしがそうしたいんです!」


 アンベール様はきっと、ロミー様と結婚するのだと思う。
 二人が婚約しているという話は聞いたことがないけど、親同士の仲もいいらしいし家格的にも申し分ない。今は発表のタイミングを見計らっている……といったところだろうか?


「あっ、ラナ嬢!」


 アンベール様が私の名前を呼ぶ。彼の声が聞こえないふりをして、私はその場をあとにした。