「どうして? わたくし、なにも悪いことはしていないのに!」

「エズメ? 落ち着いて」

「落ち着いてなんていられないわ! お兄様はこの女に騙されているのよ! ねえ知ってる? アメリー様はお兄様のことが好きなの! だからこの屋敷に通っていたのよ! それに、聖女気取りで慈善活動までしているし、とんでもない偽善者で……!」


 パン! と乾いた音が響く。突然のことに理解が追いつかず、アメリーはエズメとセヴランを交互に見た。


「お兄様……?」


 エズメが左頬を押さえている。状況から判断するに、セヴランがエズメをぶったのだ。
 ショックのあまり、エズメは涙も引っ込んでしまったらしい。ワナワナと震えながらセヴランのことを見上げていた。


「おまえはそんなひどいことをアメリーに言ったのか?」


 普段温厚なセヴランから発せられる冷ややかな空気。エズメがヒッと息をのむ。


「え? そんな、いっ……いいじゃない。だって、あくまでわたくしの考えだもの。それに、そのときはアメリー様を名指ししたわけではなかったし。思ったことを口にすることのなにが悪いの?」

「……自分が思ったことならば、なにを口にしてもいいというわけではない」


 セヴランはそう言って小さくため息をつく。