「自分をしっかりお持ちいただくことも結構だけど、少なくとも、わたくしは嫌な気持ちになりますわ。もっと小物を取り入れるとか、別の色合いのドレスを選んでみるとか、いろいろと工夫をなさればいいのに。ねえ、アメリー様もそう思いません?」

「え?」


 唐突に同意を求められたアメリーは思わず目を丸くし、次いで苦笑いを浮かべる。彼女のドレスは白いシルク地に銀糸の刺繍のもの。エズメの批判が誰に向けられたものなのか――アメリーを指しているのは明らかだ。


「そ……そうですわね。エズメ様のおっしゃるとおりです」

「でしょう? やっぱりアメリー様はわかっていらっしゃいますわ! ……まあ、これはあくまでわたくしの考えなのだけど、ね」


 エズメはそう言って、満面の笑みを浮かべる。


 公爵令嬢エズメ・ロズフェリエはいつもこうだった。誰に対する批判かを明言せず、けれどそうとわかるように言及し、相手が傷つくのを見て楽しんでいる。いや――少なくとも周りからはそう見えた。

 内容は茶会によって異なり、言葉遣いや立ち居振る舞い、服装や髪型、手土産のセンスなどなど、非常に多岐にわたる。しかも、それらは決してマナー違反や誤っているわけではなく、単にエズメの価値観と合わないというだけなのだ。


 名指しをされていないため、それらの批判は一般論と言われたらしようがない。だが、内容を聞くに特定の誰かを――アメリーを批判しているとしか思えない。

 だから、エズメが『誰のことってわけではないのだけど』と話を切り出すときにはいつも、お茶会の出席者全員に緊張が走るのだ。