「あらあら、わたくしの悪巧みはこの程度では終わりませんわ。
今回の立役者に、きちんとしたご褒美を与えなくては――――でしょう?」


 その瞬間、唐突に襟を引っ張られ、ベルクは思わずバランスを崩す。
 甘い香り。強い意志を宿した瞳がベルクを間近で捉える。
 レイラーニは微笑むと、彼の耳に唇を寄せた。


「貴方にはわたくしがいるところまで――――高嶺に登ってきていただきます。そのために、陛下とお父さまに事の顛末をしっかりと話して聞かせますわ。
わたくし、ほしいもののためには手段を選ばない人間ですの」


 愉悦と邪気に満ちた笑み。それは、元婚約者であるシュタインには見せたことのなかった表情だ。


(こんなん見せられたら堕ちるっしょ)


 ベルクは口元を隠しつつ、眉間にぐっと皺を寄せる。


「――――善処します」


 男には、やらねばならぬ時がある。

 ベルクの返答に、レイラーニは満足気に微笑むのだった。