「例えば?」

「例えば――――卒業パーティーを私利私欲のために台無しにしてしまった愚か者がいると陛下に進言をするとか。いわれのない罪で国外追放をされそうになったことを、お父さまに訴えるとか」


 レイラーニは言いながら、うっとりと夢見るような表情を浮かべた。


「きっとその『愚か者』は無事ではすみませんわねぇ。陛下はわたくしのお父さまを決して敵に回したくないはずですもの。良くて廃嫡、悪くて国外追放というところかしら? 皆様に迷惑をかけた分、しっかりと苦しめばよいのです。あの顔が絶望で歪むさまが、今からとても楽しみですわ」


 彼女の父親――――ロードデンドロン公爵は、陛下のいとこに当たる人だ。母親が隣国の姫君で、政治的手腕に優れるうえ、カリスマ性にあふれている。

 このままでは国を乗っ取られてしまう――――彼を恐れた国王は、シュタインとレイラーニを結婚させることにした。公爵家を王室の支配下に置くために。これ以上枝葉を広げさせないために、と。


「いいっすねぇ。それでこそ高嶺の花――――貴女はそうやって笑ってるほうが似合ってます」


 ハハッと声を上げてベルクは笑った。あんなことがあったあとでも凛と胸を張るレイラーニは、とても美しく見える。彼の胸は小さく高鳴った。