弦楽器の音色に合わせ、ベルクとレイラーニはそっと身を寄せ合う。


(まさかこんな展開になるとはなぁ)


 ベルクは思わずふぅと小さく息を吐いた。

 ダンスなど、一生縁がないと思っていた。
 貴族の家庭に生まれたとはいえ、彼は爵位を継げない三男だ。それに加え、上の二人と比べて素直さに欠ける彼は、家族の中で爪弾きにあっていた。


『家名を汚すことだけはするなよ』


 それが父親の口癖で、あとは徹底的にベルクを放置。そもそも興味を持たれなかった。
 家庭教師も付けられなかったし、縁談を用意するなどもってのほか。全て自分で勝手にやってくれという思し召しだった。

 そんな中、独学で剣をはじめたところ、運良く兄の教師たちの目に留まり、シュタインの近衛騎士を務められることになった。それも今日までの話かもしれないが――――。


「――――殿下曰く、わたくしは悪女らしいので……これから色々と策を弄するつもりですの」


 そのとき、何を思ったのかレイラーニがそんなことを口にした。ベルクは目を瞬き、それからニヤリと口角を上げる。