「ベルク様」


 そのとき、誰かがベルクの名前を呼んだ――――レイラーニだ。

 彼女は頬を赤く染め、唇を引き結び、ベルクのことを見つめている。周囲の注目は既に逸れ、二人の会話を聞いているものは誰も居ない。


「なんっすか?」


 勝手なことをした彼への文句だろうか? 公明正大な公爵令嬢である彼女にとっては、下手な嘘を吐くことも、他人に庇われることすらも屈辱だったのかも知れない。


「その……茶番により、パートナーがいなくなってしまいましたの。わたくしと踊ってくださいませんか? この学園、最後の日ですから」


 ベルクが目を丸くする。まさかそんなことを言われるとは思ってもみなかったのだ。


「いいっすよ」