(――――やっぱダメか? 無理筋すぎ?)


 あまりの気まずさに肝が冷える。

 けれど、ベルクが非難の声を覚悟したその時、会場のどこかからともなく拍手が聞こえてきた。それは次第に大きくなっていき、会場中を揺るがすほどの大音量へと移り変わる。彼は瞳を輝かせた。


「そうよね。我が国の王太子殿下が、あんな愚かなことをするはずがないものね!」

「ホントホント。人前で婚約を破棄するだけじゃなく、罪のない令嬢を国外追放に処するなんて、そんな馬鹿なこと、あるはずがないって!」

「そもそも、レイラーニさまがいらっしゃるのに、他の女性を好きになるなんてありえないことで――――」


 人々はみな、『あれは演技だったのだから』と言い訳をし、悪しざまにシュタインのことを罵っていく。そうしていくうちに、曇っていた表情が明るくなり、笑い声が広間に木霊しはじめた。


(良かった)


 ひとまずこれで、最悪の事態は避けられたはずだ。
 まあ、後から顛末を知ったシュタインに、ベルクが罰せられる可能性はあるけれども。