「さてと」


 ポリポリと頭をかきつつ、ベルクはレイラーニをちらりと見遣る。険しい表情。彼女が身構えているのがよく分かる。


「――――レイラーニ嬢」


 尋ねつつ、ベルクはニヤリと笑みを浮かべた。
 息を呑む人々。戸惑いつつもレイラーニを守ろうと動く令嬢たち。一同の視線が一斉にベルクへと降り注がれる。
 ベルクは大きく息を吸った。


「お疲れさまでした! お芝居はここまでで大丈夫っす」

「…………え?」


 レイラーニが目を見開く。次いで、周囲の人々が目を丸くした。


「殿下も人が悪いっすよねぇ。レイラーニ嬢とはきちんと手順を踏んで、穏便に婚約解消をしてたっつーのに、こんな断罪劇を演じるなんて」


 ケラケラと笑いつつ、ベルクはレイラーニに向かって必死に目配せをする。


(まあ、嘘だけどね)


 シュタインは本気でレイラーニを断罪しようとしていた。国から追い出す気満々だった。そのせいで国が荒れることなど一切想像せず、ただ欲望の赴くままに行動し、レイラーニと国民たちを傷つけようとしていたのだ。


 けれど、さすがにそれはいただけない。


 ベルクは本当は人前に出るのは嫌いだ。こんな役回りも柄じゃない。
 それでも、男には、やらねばならぬ時がある。

 上手く行けば国を内紛から救った英雄になれるし、失敗したところで構わない。シュタインか公爵、どちらかの怒りを買い、大嫌いな家族もろとも処刑されるというだけだ。

 一世一代の大嘘。
 これは彼の命を賭けた大博打なのである。