「なんだ、ベルク。今、とてもいいところなのに」


 シュタインはそう言って、レイラーニのことをちらりと見遣る。

 レイラーニが己の前に跪く姿か。
 はたまた夜会会場から無理やり連行され、惨めに追放される姿か――――どちらに転んだとしても、シュタインにとっては構わない。彼は楽しくてたまらなかった。


「あーー……追放は自分がやっとくんで、殿下はさっさと城に帰ったほうが良いっすよ。これ以上長引いたら、騒ぎを聞きつけた公爵が騎士たちを引き連れてやってくるかもしんないし。暴動起きちまうかもしんねぇっすから」

「なに⁉ それは本当か?」


 シュタインは夜会会場の入り口を見つつ、ビクリと肩を震わせる。

 彼には周りが全く見えていなかった。だから、周囲が彼の訳がわからなさすぎる断罪劇のために、全く動けずにいたことにも気づいていないのである。


「もちろん。相手は稀代の悪女、レイラーニ嬢の親っすよ? すぐにでばってくるに違いありません。公爵が相手じゃ、俺たち近衛騎士が総出で頑張ったところで、殿下を守りきれねぇかもしれません」


 実際のところ、ロードデンドロン公爵が本気を出したら、この夜会会場内の人間ぐらいひとたまりもないだろう。戦力の差があまりにも大きすぎる。
 シュタインの表情が一気に青ざめた。