(カッコいいと思ってるんだろうなぁ、アレ)


 シュタインのような人種は、自分の上に人が立つことを極端に嫌う。しかるに、彼よりも余程優秀で美しく、人望も厚かったレイラーニを公衆の面前で辱めることで、鬱憤を晴らし、自尊心を満たしているのだろう。『この女は必要とされていない。婚約を破棄されるような価値のない女なのだ』と。

 ダセェなぁと呟きながら、ベルクはそっと口の端を上げる。よく分かる――――ベルクにも身に覚えがあるからだ。


「――――理由をお聞かせいただけますか?」


 レイラーニはとても冷静だった。
 悲しむでも、怒るでもなく、淡々とシュタインに疑問を投げかけている。


「悪女め、教えられなければ分からないのか? 普段散々才女ぶっておいて、こういうときにはなにも分からないとは――――情けない。我が国はこんな碌でもない女を妃にするつもりだったとは……」

「いえ、殿下がそちらの令嬢をいたくお気に召していること、逆にわたくしがお気に召さないことは存じ上げておりました。けれど、だからといって一方的に婚約を破棄されるようないわれはございませんもの。わたくし、なにも悪いことはしておりませんし」


 婚約とは家同士の約束だ。簡単に破棄できるものではない。
 相手に落ち度があるなら話は別だが、レイラーニの言うように、彼女にはなんら悪い点はなかったはずだ。取り巻きの令嬢たちが一斉に首を縦に振る。シュタインはカッと頬を赤く染めた。