「そもそも、エミュリア嬢は俺と結婚をしたいわけじゃない。『ウィロウ嬢と仲のいい俺』を手に入れたかったというだけだろう?」


 なおも食い下がるエミュリアに、ゲイル様が冷ややかに言い放つ。


「先程君はウィロウ嬢に向かって『どうせ捨ててしまうんでしょう?』と言っていたが……君のほうこそ、どうせウィロウ嬢の真似しかできないんだろう? もっと自分というものを持ったらどうだ?」


 エミュリアはその瞬間、己の手のひらに視線を落とし、頬に触れ、全身を見回してから唇を噛む。ドレスも、化粧も、香水も――今の彼女を構築しているものは全部、わたしが過去に選んできたものだ。


「……っ! …………っ!」


 エミュリアはなにも言い返すことができないまま、夜会会場から飛び出した。


***


「ごめん。夜会、楽しみにしていたんだろう?」


 ゲイル様がわたしに尋ねる。
 騒ぎを起こした手前、その場に留まるのも気が引けて、わたしたちも会場を抜け出すことにしたのだ。


「そんな……とんでもない! むしろ、原因を作ったのはわたしのほうですし……嬉しかったです。ゲイル様がわたしを守ってくれたこと」


 ずっとずっと、エミュリアに言ってやりたかったことを、彼は言葉にしてくれた。それで失われたものが戻ってくるわけではないけれど、これまで捨ててきた大事なものを拾い上げられているような――本当の自分を取り戻せているような――そんな気がする。