「……今夜もダンスの約束をしているの?」

「いいえ、まだよ。でも、どうしてそんなことを聞くの?」

「それは……わたくしたちにも縁談が来ているという話だし、そろそろ色々とわきまえなければならない頃合いだと思ったものだから」

「え……? 縁談? わたしたちに?」


 エミュリアの言葉に心が塞ぐ。
 そんなこと、お父様からもお母様からもなにも聞いていない。そりゃ、わたしたちは貴族の娘で、必要ならば親の言うとおりに結婚をするべきなんだろうけど。


「おめでとうございます、エミュリア様! お相手はどんな方なんですか?」

「それがね……」


 エミュリアはそう言って会場入りしたばかりのゲイル様のほうをちらりと見遣る。意味深な微笑み。友人たちのキャー! という声が聞こえてきて、心がズタズタに引き裂かれるような心地がした。


「ほら、わたくしも彼も同じ侯爵家で釣り合いが取れているでしょう? それで、お声がかかったみたいなの。わたくしも彼なら不足はないし」


 ウキウキと浮かれた口調のエミュリアに反し、わたしの心はどんどん沈んでいく。