『本当はわたくし、あの髪留めをウィロウ様が先につけていたことに気づいていたんです。けれど、あの雰囲気のなかでは言い出しづらくて……あれ以降、ウィロウ様は髪留めを着けてこなくなったでしょう? なんだか申し訳なく思っていたんです』


 数日前のこと、とある令嬢と二人きりになったタイミングで、わたしはそんなことを打ち明けられた。

 正直、誰にも気づいてもらえていないと思っていた。どれだけ素敵な品も、エミュリアが身に着けなきゃ意味がないんだって。
 だけど、本当はそうじゃなかったんだって。そう思えるだけで、なんだかすごく嬉しかった。


『すごく似合っていましたし、エミュリア様はすでに別の髪留めを使っていらっしゃいますから……是非またつけてきてください。もしそれでなにか言う方がいれば、わたくしがきちんとフォローしますわ』


 加えて、彼女はそう言ってくれた。わたしは素直に嬉しかった。
 だけど、あの髪留めはすでに手放してしまっている。他のお気に入りの品々も。


(今なら……)


 ゲイル様に勇気をもらえた今なら、あの髪留めを身につけられるかもしれない。わたしが先に買ったんだって。すごく気に入っているんだって。きちんと主張できるかもしれない。

 なんて、後悔したところでもう遅い。大事だ大事だと言いながら、わたしはそれらを手放してしまった。無下に捨ててしまった。自分のプライドを守るために。本当に、申し訳ないことをしてしまった。


「――声をかけてもらえてよかった。実は、ウィロウ嬢に渡したいものがあったんだ」

「渡したいもの、ですか?」


 差し出した手のひら。冷たい金属の感触にドキッとする。次いで視線を落とせば、そこにはわたしが捨ててしまったもの――お気に入りの髪留めが載せられていた。