「この髪留めが? けれどこれ、購入したばかりのものだろう? 壊れた様子もないし、捨てる理由などないように思うが」

「まあ、そうなんですけどね……」


 本当はゲイル様の仰るとおり、捨てる理由なんてひとつもない。すごく大切で、気に入って購入したものだもの。思わずため息が漏れた。


「ん? そう言えば、今朝これと同じものをエミュリア嬢がつけていたな」

「ええ、そうなんです。それこそがわたしがここにいる理由なんです。だって、同じものを身につけていたら、真似しているみたいで嫌でしょう? だから……」

「けれど、君のほうが彼女よりも先にこの髪留めをつけていたじゃないか」

「……!」


 驚いた。ゲイル様はわたしが先にこの髪留めをつけていたことに気づいていたんだ。絶対、誰も気づいていない――エミュリアが身につけた瞬間、わたしのなかですら『なかったこと』になっていたのに。


「だったら、捨てなくてもいいじゃないか。気に入っているんだろう?」

「……気に入っているからこそ嫌なんですよ。もう持っていたくないんです」