ドレスに髪型、化粧に髪留め、通学カバンや制服のリボンだって真似されたし、美しく繊細なガラス製の万年筆も、レザーの手帳も、密かに持ち歩いていた金細工の懐中時計すら真似をされてしまった。

 そのくせ、本人に悪気はまったくない。それどころか、真似をしているという意識すらなく『自分が見つけた、気に入ったから手に入れた』という感覚なのだ。


(わたし、本当は嫌なんだけどな)


 だって、先に見つけたのはわたしなのに。気に入ったからお迎えしたのに。

 だけど、周りから『素敵』だと認識されるのはエミュリアが身につけたあと。彼女が身につけることにこそ大きな意義があるのだ。わたしが先だって主張したところで嘘くさいし、そのまま身につけていたら真似したのはわたしのほうだって勘違いされてしまう。


 だから、エミュリアが真似をしてきたら、わたしは自分のお気に入りの品々をこっそり手放すのだ。


 広大な学園の敷地の端、ゴミ捨て場まで足を運び、わたしは小さくため息をつく。
 たった今手放した髪留めには、わたしの瞳によく似た緑色の石がさりげなく散りばめられている。高価な品ではなかったし、とてもシンプルなデザインだけど、それでもすごく気に入っていた。大好きだった。本当はずっと着けていたかったのだけど。


(バイバイ、だね)


 大きなため息をひとつ。クルリと踵を返したそのとき、わたしは思わず固まった。クラスメイトの一人――ゲイル・プランタン侯爵令息が目の前に立っていたからだ。