「ダニエル様、見てください。昨日まで蕾だった花が咲いてますよ。綺麗ですね」


 それからさらに数日後のこと、フィオナはダニエルを連れ、日課の散歩に出かけていた。公爵家の庭園は広く、いろんな花が咲いている。花や蝶を見て満面の笑みを浮かべるダニエルを見つめながら、フィオナは目を細めた。


「――君がダニエルの新しい世話係か?」


 と、背後から声がかけられる。振り返ると、そこにはフィオナと同じ年頃の美しい男性が立っていた。
 色素の薄い金の髪に、彫刻作品のように整った目鼻立ち、瞳はサファイアのような深い紫色で、見るからに高貴なオーラが漂っている。彼がこの屋敷の主――アシェルなのだろう。フィオナはダニエルをいったん他の世話役に預けると、深々と頭を下げた。


「ご挨拶が遅れて申し訳ございません。フィオナと申します。先日からお世話になっております」

「いや。私こそ、もっと早くに会いに来るべきだったのだが……」


 アシェルが返事をしているとダニエルが「んっ! んっ!」と声を上げる。見れば彼はフィオナに向かって必死に手を伸ばしているではないか。