その日から、フィオナはダニエルの世話係の一人として働きはじめた。
 太陽が昇ると同時にダニエルの部屋のカーテンを開け、朝の挨拶をする。ダニエルの顔や手を拭き、おむつを替えた後は授乳を済ませて庭の散歩へ。部屋に戻るとうつ伏せや寝返りの練習をしたり、抱っこをして絵本の読み聞かせをする。ダニエルが昼寝をしたのを見守ったら休憩だ。


「フィオナさん、ダニエル様は私が見ておきますから、ゆっくり休憩をなさってください」

「ありがとうございます。だけど、わたしもここにいさせてください。少しでもたくさんダニエル様の側にいたいんです」


 他にもお世話係がいるのだから、フィオナがダニエルの側を離れたってなんの問題もない。けれど、フィオナはそうしたくなかった。

 ふっくらした頬を、あどけない寝顔を見る度に、とてつもなく幸せな気持ちになれる。空っぽだった心と体が満たされて、胸が温かくなるのだ。


(もう二度と、こんな気持ちになることはないと思っていたのに)


 絶望のどん底にいたフィオナにとって、ダニエルは希望の光だった。本当に、感謝してもしきれない。フィオナはそっと目を細めた。


「それにしても、旦那様はダニエル様の様子をちっとも見にいらっしゃらないのね」


 働きはじめてから数日経つが、フィオナはアシェルと顔を合わせていない。公爵が忙しいのは承知しているが、こんなにもかわいいダニエルの成長を見守らずにいられるなんて信じられない、という気持ちだ。


「まあ、旦那様は……ご事情がご事情ですから」


 と、他の世話係が言葉を濁す。フィオナは少しだけ首を傾げつつ、ダニエルの寝顔を見守った。