「あぅ……んだっだっ」

「あぁ……!」


 柔らかく温かい手のひらの感触、甘いミルクの香り、何よりダニエルが見せた無垢な笑顔がたまらなく愛しく、フィオナは思わず涙を流す。

 己の子を失った時――今後、妊娠することも叶わないと知った時には、他人の子どもを見る度に苦しくなるだろうと思っていた。公爵家に働きに出ると決めた時にも、絶望に打ちひしがれるかもしれないと覚悟していた。
 けれど、フィオナは今、まったく別の感情に包まれている。


「あの……! 抱っこしてもいいですか?」

「ええ、もちろん。きっとダニエル様も喜びますよ」


 使用人頭に微笑まれ、フィオナはダニエルを抱き上げた。


「重たい……」


 いや、むしろ軽い気もする。ダニエルはキャッキャッと笑い声を上げ、甘えるようにしてフィオナにすがりつく。


「わたし、真心を込めてダニエル様にお仕えしますわ」


 かわいくて、愛しくてたまらず、フィオナはダニエルをギュッと抱きしめた。