青空にあった黒点が大きさを増して、視界いっぱいに広がるまで、時間はそう掛からなかった。

 ふわりと大きく風が吹いて、黒竜は草原に舞い降りた。

「……ルクレツィア。この子はジリオラの後継者、子竜守のウェンディだ。アスカロンの世話も、これから彼女にも任されるそうだ」

 先ほど団長はルクレツィアを見て私がどう思うかと心配していたけれど、私は彼女を見て、恐怖することはなかった。

 姿があまりに美しすぎて怖いという畏怖の念ならば、確かに感じていたかもしれない。なんて、美しい……彼女が雌竜だから、余計にそう思えてしまうのかもしれない。

 ルクレツィアは驚くほどに美しい造形の竜で、名工が長い時間を掛けて造った彫刻のようだった。特に黒の中に銀の粉が走る鱗はとても綺麗で、数多の光がきらめく星空を思い起こさせた。

 色の濃さが彼女の力の強さを示すと言うのなら、とても強い竜なのだろう。神竜と呼ばれている竜なのだから、それは当然のことかもしれないけれど。