あなたなんかいなくても


会社近くのおしゃれな個室の居酒屋で30分ほど経っても専務は来ない。
少し飲みながら専務を待つことにした。
「佳乃子ちゃんは湊のことどう思う」
どうって、今までほとんど話したことがないからよく分からない。
それに専務の事『湊』って。
颯太と兄弟って言われてもピンとこないし。
「あいつとは幼稚園から大学まで一緒で腐れ縁。
一途で可愛いやつなの。ちょっと性格ひねくれてるけど…、これからもよろしくね」
何でも知ってるんだろうなぁ。
私はそんなに知らないけれど、半年で仕事は真面目で優秀な事は分かった。

話しているとようやく専務が到着した。
何があったが凄く疲れているようだ。
「どした?」
完全に友達モードだ。
「お袋が見合い話を持ってきた」
お店に入ってきた時頼んでたのか専務の前にビールが置かれた。
「『夢屋』って百貨店の娘。興味が無いからとりあえず断ってきたけど、なかなかしつこい」
政略結婚ってやつかな?
守秘義務を守らないと。
「湊、これからって時に大変じゃ…」
何が大変なんだろう。
きっと守秘義務だから話せないよなぁ。