休み時間になり、翔太と美咲が早速悠真の周りに集まってきた。
「なあ結城、転校生ってことは、この街に住むのも初めてなんだろ?どう?慣れそうか?」
翔太が興味津々に聞くと、悠真は少し考え込んでから答えた。

「いや、それが……実は昔、この街に住んでたらしいんだ。俺、あんまり覚えてないんだけどさ」

その言葉に、詩織の心臓が跳ね上がった。隣で何気なくノートを開いていた手が止まる。

「えっ、この街に住んでたの?」美咲が驚いたように目を丸くする。
「じゃあ懐かしく感じる場所とかあるんじゃない?」

「それが不思議なんだけど……全然覚えてないんだよね。小さい頃のことだからって言われたけど、なんか変な感じがしてさ」
悠真は苦笑いを浮かべながら頭をかいた。

翔太がふと詩織の方に目を向ける。
「おい詩織、もしかしてお前も昔からこの街に住んでたんだろ?なんか覚えてるんじゃない?」

突然話を振られた詩織は、咄嗟に笑顔を作った。
「え、えっと……特に覚えてることはないかな。私も小さい頃のことなんて曖昧だし」

自分の声が震えているのがわかる。でも、悠真の記憶を失った理由や、幼い頃のことを話すわけにはいかなかった。

「そっか。まあ、これから新しい思い出作ればいいよな!」
翔太が明るく言うと、悠真もうなずいた。

「うん、そうだね。今はクラスに馴染むのが最優先かな」

そのとき、悠真がふと詩織の方を見た。
「星野さん、よかったら案内とかしてくれない?俺、まだこの学校のことも全然わからなくて」

詩織は一瞬戸惑ったが、すぐに小さく頷いた。
「もちろん。何かわからないことがあったら言ってね」

悠真の頼もしい微笑みに、詩織は胸の奥がぎゅっと締めつけられるような感覚を覚えた。

忘れてしまっているのに、昔と同じように優しい悠真。だけど、私は……

そんな詩織の葛藤をよそに、翔太と美咲は楽しげに笑いながら次の話題を探していた。