校門をくぐると、いつものように詩織の友達、佐藤翔太と中村美咲が待ち構えていた。翔太は短髪で元気な男子、そして美咲はいつも詩織をからかってくる明るい女子だ。

「詩織、おっそい!もうちょっと早く来いよ!」
翔太が笑いながら詩織の肩を軽く叩く。

「ごめんごめん。ちょっと考え事してたの」
詩織が微笑みながら答えると、美咲が怪訝そうな顔をする。

「え?考え事?めずらしー!さては昨日の転校生のこととか?」
「ち、違うよ!」
詩織が慌てて否定すると、美咲がニヤニヤしながらさらに詰め寄った。

「いやいや、だってさ、隣の席になったって言ってたじゃん。ほら、結城くんだっけ?あれ、もしかしてイケメンだったとか?」
「そ、そんなことないよ!ただの……普通のクラスメートだし」
詩織が声を裏返しながら言うと、翔太が笑い声を上げた。

「おいおい、隣の席になったら普通じゃいられないだろ。俺なら絶対何か話しかけちゃうけどな!」

美咲も楽しそうに笑いながら、詩織の腕を引っ張る。
「よし!じゃあ確認しに行こう!ほら、詩織も一緒に!」
「え、ちょっと待って!」

二人に引っ張られるまま、詩織は教室の中に連れて行かれた。

教室に入ると、悠真が机に座りながら、窓の外をぼんやり眺めていた。朝の光が彼の横顔を照らし、なんとなく物憂げな雰囲気が漂っている。

「おーい、結城くん!」
翔太が勢いよく声をかけると、悠真は驚いたように振り返った。

「あ、えっと……おはよう」
少し戸惑いながらも、悠真が微笑む。

「昨日転校してきたばっかりだろ?これからよろしくな、俺は佐藤翔太!で、こっちは中村美咲!」
翔太が元気よく自己紹介をすると、美咲も手を振りながら自己紹介をする。

「よろしくー!でね、この子が星野詩織ちゃん。昨日隣の席だったんだよね?」
美咲が詩織を指差しながらからかうように言うと、詩織は慌てて美咲の腕を掴んだ。

「ちょっと、そんな紹介しなくていいから!」
「え、だって仲良くした方がいいじゃん。隣の席なんだしね?」

詩織が赤くなっているのを見て、悠真は少し不思議そうな顔をしながらも、小さく笑った。
「よろしくな、星野さん。クラスメートとして仲良くしよう」

その言葉に、詩織の胸が少し締めつけられる。
「うん……よろしくね」

翔太と美咲がわいわいと楽しげに話している間、詩織はどこか心ここにあらずだった。

悠真の記憶が戻ったら、この関係も変わってしまうのだろうか?
そんな不安が、彼女の胸の中で静かに膨らんでいくのだった。