翌朝、詩織は学校に向かう途中、隣の家から出てくる悠真を見つけた。
「おはよう、結城くん」
「おはよう、星野さん……いや、詩織って呼んでもいい？」

悠真がそう言うと、詩織は少し驚いた顔をしたが、すぐに頷いた。
「もちろん。なんだかその方が懐かしい感じがするしね」

二人で歩く道中、悠真がふと立ち止まり、少し言いづらそうに口を開いた。
「なあ、俺って……昔、この街で何かあったのかな？」

詩織の心臓が一瞬止まりそうになる。
「……どうしてそう思うの？」

「わからない。でも、昨夜夢を見たんだ。森みたいな場所で誰かと一緒にいて、その人に何か約束をしてた気がする。でも、誰だったのか思い出せなくて……」

詩織は動揺を隠しながら、できるだけ冷静に答えた。
「もしかしたら、記憶が少しずつ戻り始めてるのかもね」

「そうなのかな……。でも、なんか胸がモヤモヤするんだよな」
悠真は曖昧な表情を浮かべながら歩き出す。

詩織はその背中を見つめながら、心の中でそっと呟いた。
あの日のことを、もし悠真が思い出してしまったら――私はどうすればいいんだろう？