詩織は自分の部屋に戻ると、ベッドに倒れ込んだ。天井を見上げながら、悠真と過ごした幼い頃の記憶が次々と蘇ってくる。

隣の家に住んでいた悠真は、詩織にとって憧れの存在だった。いつも明るくて、面倒見が良くて、何かあれば真っ先に助けてくれる。そんな彼に、詩織は密かに想いを寄せていた。

あの夏の日も――

詩織の脳裏に、幼い頃のある出来事が浮かんだ。
二人で小さな冒険をしようと決めて、秘密の場所を探しに行った日。小さな森の奥で、木漏れ日の中、悠真が言った言葉。

「詩織、大丈夫だよ。俺が絶対守るから」

その言葉が、詩織にとってどれほど大きな支えだったか。
しかし、その後の出来事が、悠真の記憶を奪った――。

詩織は目を閉じた。自分の中にしまい込んだあの事件。彼が記憶を失った理由。そして、自分がその一部始終を知っているという事実。

でも、今の悠真に話すべきなのだろうか？
自問自答するものの、答えは出ない。ただ一つ確かなのは、悠真に「自分を忘れられた」という現実が、詩織の心に深い傷を残しているということだった。

その夜、詩織は眠れないまま窓の外を見つめ続けた。隣の家の灯りが消え、静寂が訪れる中、幼い頃の自分と悠真が笑い合っていた記憶がやけに鮮明に蘇る。