不器用なわたしたちの恋の糸、結んでくれたのは不思議なもふもふたちでした

 スリジエさんの背に乗って屋敷に戻り、中庭に降り立つ。とたん、屋敷の中から使用人たちが一斉に駆け出してきた。

「エリカ様、ご無事ですか!」

「ああ、よかった……戻られなかったらどうしようと……」

 わたしたちを取り囲んだ使用人たちは、てんでにそんなことを言っている。涙ぐんでいる者もいた。

『相当心配されていたようだな』

『仕方あるまい。主が留守にしているというのに、今度は奥方まで飛び出していったのじゃから』

『普通は心配する。トレたちがすごいって、このヒトたちは知らないから。エリカが大丈夫かなって、そう思うの当たり前』

 植え込みからひょっこりと顔を出し、ついでにそばの花を一輪もしゃもしゃと食べながら、トレがのんびりと言う。

 気をつけてスリジエさんの背中から降り、使用人たちを見渡して口を開いた。

「みんな、心配させてごめんなさい。わたしは無事よ。彼らが助けてくれたから」

 そう言って、得意げに胸を張るネージュさん、優雅にしなを作っているスリジエさん、二本目の花をもぐもぐやっているトレ、十羽ほどが一列になって飛び回っているフラッフィーズを順に指し示す。

「そしてもう一つ、ヴィンセント様も無事です。戦いは終わったわ。じきに、ヴィンセント様も戻ってこられます」

 わたしの言葉を聞いた使用人たちの喜びようは、ものすごいものだった。

 メイドたちは手を取り合って泣き笑いをし、執事や料理人たちも顔を見合わせてうなずき合っている。みんな涙声で、よかったよかったとてんでにつぶやいていた。

 前から薄々感じてはいたのだけれど、ヴィンセント様は屋敷の使用人たちにとっても愛されていると思う。

 彼ら彼女らは、ヴィンセント様が料理をしていても、わたしが雑巾片手にせっせと掃除をしていても、眉をひそめたりはしない。むしろ、かすかに微笑みながらそっと見守ってくれていた。

『ヴィンセントのやつ、一人でいようとしたとか何とか言っていたが、どう考えても無理な話だったな。これだけの人間に慕われているのだからな』

『そうじゃな。案外あやつ、人間をも引きつける匂いを放っておるのかもしれぬぞ。貴族はきっと鼻が詰まっておるのじゃ』

『トレもそう思う。鼻づまり。薬あげたら、治るかな?』

 大喜びの使用人たちを見て、ネージュさんたちがのんびりとなごやかに話している。

 にぎやかな中庭を見ながら、わたしはようやく安堵のため息をついていた。