不器用なわたしたちの恋の糸、結んでくれたのは不思議なもふもふたちでした

「これでも私は、母国ではそれなりの立場にある。私の進言であれば、陛下も聞き入れてくださるだろう。……陛下が手に入れたいと思っておられる場所は、他にもたくさんあるからな。そちらのほうに気をそらす、それだけだ」

 つまり結局、彼らはどこか別の国に攻め入るのだろう。でもひとまず、わたしたちの国は少しだけ安全になる。少なくともしばらくの間、南の大国とは戦わなくて済むのだから。

「私たちはこれ以上進軍しない。至急兵をまとめて、本国へ帰投する。その間追撃を控えてもらえるのなら、我が国はこれ以上貴国に侵略はしない。私の名と剣にかけて、そう約束しよう」

 さらに言葉を重ねるゲンナジーに、ヴィンセント様がゆったりとうなずく。

「ああ、その言葉を信じよう」

「それでは、交渉成立だな」

 二人が同時に手を差し出し、がっしりと握手する。わたしたちはそんな二人を、固唾をのんで見守っていた。というか、何も言えなかった。目の前で起こっていることが、信じられなくて。

 ゲンナジーは敵の兵士たちを連れて、こちらに背を向けて歩き出す。しばらく歩いてから、彼はふと振り返った。

「もしかしたら、私が陛下をお止めできずに、また別の誰かがここに攻め入ってくることになるかもしれん。その時は、遠慮なくその青い鳥の大波をお見舞いしてやってくれ。私ばかりがあんな目にあうのは、しゃくだからな」

「ああ、善処する」

 つい先ほどまで、両軍の総大将として全力で争っていたはずの二人。

 しかし彼らのやり取りは、何というか友人のような、そんな気やすさをはらんでいた。なんだってあんなに、親しげなのだろう。

『おや、エリカが悩んでおるのう』

『男っていうのは、ああいうもんなんだよ。命と国の未来をかけた戦いの中で、あいつらも通じるところがあったんだろう』

『まったくもって、子供じみておるがの』

『おれたちからすれば、ヴィンセントもあのゲンナジーも子供のようなものさ』

『違いないのう』

 どう発言していいのか分からずに戸惑っていると、上のほうから別の声がした。

『戦い、これで終わるね。よかった』

 相変わらずスリジエさんの背中に乗ったままのトレが、薄目を開けてほっとした声でつぶやいていた。辺りを見渡すと、兵士たちはみんな安堵の表情を浮かべていた。