不器用なわたしたちの恋の糸、結んでくれたのは不思議なもふもふたちでした

「……明らかにおかしいな」

「おかしいですね」

 味方の陣の中を突っ切りながら、わたしとヴィンセント様は大いに困惑していた。

 周りの兵士たちは、一応きっちりと整列している。だがその表情は酒にでも酔ったかのようにぼんやりしているし、「戦なんてやめよう」「平和が一番だよな」「話し合いで解決しようぜ」などというささやきが、あちこちから聞こえてくるのだ。

『これが、夢鳥の力なのじゃ。かいだ者に夢を見せる、そんな香りを放つ』

『その夢を通じて、相手の感情や思考をある程度操れるんだ。……正直、残り香でおれまでおかしくなりそうだ』

『今回あやつはエリカの願いを聞いて、戦場にいるもの全てに香りをたっぷりとかがせてやったのじゃろうな』

『夢鳥は、その本体のほとんどを異空間に置いている。成鳥になれば、少なくとも山一つ分くらいの大きさになるらしい。あいつはまだひな鳥だから、もっと小さいとは思うんだが……まさか、戦場を埋め尽くすことができるとは思わなかった』

 スリジエさんとネージュさんのそんな解説を聞きながら、ヴィンセント様は小さくため息をつく。

「戦況が落ち着いたのはいいが、戦意まで失っているとなると……今後の戦闘に、支障が出なければいいが」

「あの、戦意がなくなっているのは敵の人たちも同じなんですよね。でしたら、ここから和平交渉……は駄目ですか?」

「相手の出方によっては、ありかもしれないな。とにかく今は、状況をきちんと把握しよう」

 そんなことを話しながら進んでいくうちに、ブラッドさんのいる本陣へとたどり着いた。しかしここも、すっかり平和な雰囲気になってしまっている。

「ヴィンセント、さっきあの青い鳥にまとわりつかれてからというもの、どうにも調子がおかしいのだ」

 まるで屋敷でお喋りしているかのような朗らかな声で、ブラッドさんは続ける。

「なんというか……すさんだ気持ちが消え、ひどく穏やかな気持ちなんだ。みなとのんびり、酒でも酌み交わしていたいと、そう思ってしまう。この場にそぐわないのは分かっているのだが、やけに幸せな気分だ」

「それが彼らの、フラッフィーズの力なのだそうだ。人間の思考に影響する、特殊な香りを放つらしい」

「なんと、そうだったのか……! つまりわたしのこの気分も、彼らのせいだということか。……これはまた、得難い体験をしたな。それにフラッフィーズに全身包まれるというのも、また心地良くてな。とにかくふわふわで温かく、ぴいぴいと可愛らしい声がしていて……」

 ブラッドさんが、うっとりとため息をつく。ここが戦場だなんて、到底信じられないくらいにのんびりと。

 そうしていたら、最前線のほうでどよめきが上がった。大いに戸惑っているような、そんな声だった。

 また何かあったのかなと振り向いたわたしは、信じられないものを目にすることになった。