不器用なわたしたちの恋の糸、結んでくれたのは不思議なもふもふたちでした

 多くの兵士は剣を構えてはいたけれど、気おされているのかじりじりと後ずさりしていく。

 しかし時折、勇気を出して切りかかってくる者もいた。ネージュさんにではなく、わたしや兵士たちに向かって。

『おい、おれを無視するな弱虫ども。遊びたいのなら、おれが相手になってやる!』

 けれどそんな兵士たちの刃は、わたしたちには届かなかった。

 やけに楽しそうな声のネージュさんがひらりと身をひるがえし、そのたっぷりとした白い毛で剣をやすやすと受け止めてしまったから。

 そんなことをしても、ネージュさんの毛は一筋たりとも切れはしなかった。ネージュさんはふさふさの尻尾を一振りし、ひるんだ兵士をなぎ払っていく。

 兵士たちは後ろ向きに倒れこみ、他の兵士を巻き込んで地面にのびてしまう。すぐに、弱々しいうめき声が聞こえてきた。

『敵であろうと、できれば傷つけたくない。それが、エリカの願いじゃからのう。それにわらわたちは、平和を好む優しく穏やかな幻獣じゃ。さて、わらわも遊んでやるか』

 スリジエさんが愉快そうに笑いながら、大きな翼を一振りする。

 たちまちつむじ風が巻き起こり、敵兵たちを次々と舞い上げていく。そのまま後ろのほうに吹き飛ばされて、地面に落ちた。みな生きてはいるようだけど、ちょっと痛そうだ。

『トレもやる。けんかよくない。だから追い払う』

 張りきった様子で、トレがぴょんぴょん跳ねる。と、地面から可愛い花が生えてきた。花はすぐに実に変わり、はじけて種をまき散らす。

 どういう訳か種は、全部敵兵に向かって飛んでいった。そうして敵兵にぶつかった種から、大量の粉のようなものが吹き出した。

「……敵のみなさん、くしゃみしてますね。あれはあれで苦しそうです」

「不思議な種だな……だが、敵の戦意を下げることには成功している」

 謎の粉を浴びた敵兵たちは、みな剣を放り出してくしゃみを連発し始めたのだ。目がかゆいのか、かぶとを取って顔をこすっている。

 スリジエさんが生み出した風の壁に守られて、その粉はこちらまではやってこない。……あの粉を浴びなくてよかったと、心からそう思った。

『さあ、この隙に駆け抜けるぞ!』

 うっかり足を止めてしまったわたしたちをせきたてるように、ネージュさんが朗らかに言い放つ。

 すっかり大混乱におちいってしまった敵陣の中を、わたしたちは一塊になって走り抜けた。