不器用なわたしたちの恋の糸、結んでくれたのは不思議なもふもふたちでした

「なるほど、そういうことでしたか。ヴィンセント様のみならず自分たちをも助けてくださって、ありがとうございます」

「夫の危機に駆けつける……エリカ様のひたむきな思いに、自分は感服いたしました」

 彼らは口々に、そんなことを言っている。きらきらとした目で見つめられて、ちょっと恥ずかしい。

 もじもじしていると、ヴィンセント様が近づいてきた。

「そうだろう。彼女は俺には過ぎた、素敵な妻だ。さあ、事情が飲みこめたなら、いい加減野営の支度を始めよう」

 ヴィンセント様の号令に、兵士たちはきびきびと動き出す。と、スリジエさんが大きく伸びをした。

『どれ、わらわは少し周囲を見て回ろうかの。エリカ、ついて来るがよい。水場を探して、水を汲もう』

 スリジエさんの背にまたがり、高く舞い上がる。北の平原に、たくさんの明かりがともっている。二つに分かれているそれは、距離を置いてにらみ合っているようにも見えた。。

『おそらくあそこが、この戦いの最前線じゃな。こうして見ておるぶんには、美しくもあるがの』

「そうですね……」

 あそこには、たくさんの人がいる。きっとその中には、ヴィンセント様やブラッドさんのように、戦いを好まない、平和を好む人たちがたくさんいるのだろう。主君の命で、国のために剣を取る、そんな人たちが。

『またあきれるくらい集まったものじゃのう。さて、あのうち幾人が、生きて戻れるものやら』

 たてがみを夜風になびかせながら、スリジエさんが小声でつぶやく。

「……そうですね」

 わたしたちは、ヴィンセント様を助けるためにここにやってきた。でも、戦いに出た家族の無事をただ祈ることしかできない者たちが、いったいどれだけいるのだろう。

「あの戦いが一刻も早く終わって、みんな家に帰れたらいいのになって……そう思います」

『じゃな。……わらわたちにできるのは、ヴィンセントとお主を守ることくらい。何とも無力じゃの』

 どう言葉を返していいか分からなくて、そのまま黙り込む。

 頭上には一面の星空と、丸く大きな月。月明かりに輝くスリジエさんの桜色のたてがみと、風に舞うわたしの金の髪。遥か下には、たくさんの明かり。

 今が戦いの中でなければ、この光景を美しいと思えたのに。

 わたしの小さなため息は、夜の闇に吸い込まれて消えていった。