不器用なわたしたちの恋の糸、結んでくれたのは不思議なもふもふたちでした

 つる草の鳥かごの中で、敵の兵士たちが騒いでいる。そちらに背を向けて、トレが得意げに胸を張った。

『今のうちに逃げる。トレ、案内する。こっち』

「……あ、ああ。助かった、トレ」

 青灰色の目を見開きながら答えるヴィンセント様に、味方の兵士たちがおそるおそる尋ねてきた。

「あの、ヴィンセント様……先ほどから気になっていたのですが、そちらの動物たちと、女性はいったい……」

「仲間と、妻だ」

 その言葉に、兵士たちはさらに混乱しているようだった。

「あの、詳しい説明は後でしますので……」

 そんな彼らにぺこりと頭を下げて、ヴィンセント様に手を貸してスリジエさんの背に乗る。小さく笑っているネージュさんと一緒に、歩き出したトレの後に続く。

 少し遅れて、いくつもの足音が追いかけてきた。戸惑ってはいるようだったけれど、力強い足音だった。



 トレは林の中を、ずんずんと進んでいく。彼の体に触れた木々が、ふわりと枝を曲げて道を作る。スリジエさんがそのまま通れるくらいの、ちょっと不思議な雰囲気の道だ。

「待ってくれ、トレ」

『どうしたの、ヴィンセント?』

「もう日が暮れる。暗い中進むのは、俺たち人間には危険だ。この辺りなら、林の外からは見えないだろう。朝になるまで、みなを休憩させてやってくれ」

『うん。じゃあ、ちょっと木に動いてもらう。休む場所、いる』

 トレがぐるぐると辺りを走り回ると、辺りの木々が移動し始めた。地面の中を、すうっと滑るように。そうして、みんなが集まれるくらいの空き地ができた。

「助かった。お前はこんなこともできるのだな」

『ちょっとだけ場所を空けてって、木にお願いした。通ってきた道も、この空き地も、トレたちがいなくなったら元に戻るの』

 やっと、休める場所にたどり着いた。けれど見方の兵士たちは、大いに困惑した顔をしていた。ちょっぴり状況についていけていないみたい。それもそうか、ヴィンセント様が謎の獣と親しげに話しているのだから。

 あ、そうだ。今なら、ゆっくり説明できるかな。ヴィンセント様は寡黙で、説明はあまりうまくない。だったらそこを補うのが、妻たるわたしの役目だ。頑張ろう。

「あ、あの、みなさん!」

 思い切って声を張り上げると、全員がこちらを向いた。

「ヴィンセント様は、人ならぬものと話せるピアスをつけているんです。だから、この子……名前はトレーフルって言うんですけど……とも、話せているんです」

 そう説明すると、ようやく兵士たちが納得したような顔をした。ああ、よかった。それから、精いっぱい優雅にお辞儀をする。

「自己紹介が遅れました、ヴィンセント様の妻の、エリカです。ヴィンセント様が行方不明だと聞いて、幻獣たちの力を借りて駆けつけました。その……なぜかわたしも、幻獣たちと話せるので」

 ヴィンセント様の妻だと名乗れるのが嬉しくて、くすぐったい。そろそろと顔を上げると、笑顔の兵士たちと目が合った。