不器用なわたしたちの恋の糸、結んでくれたのは不思議なもふもふたちでした

 わたしの肩を借りて、ヴィンセント様がゆっくりと立ち上がる。その顔には、さっきまでとは違う穏やかな笑みが浮かんでいた。

「もっとも、君がここまで飛び出してきたことについては、言いたいこともあるが。それについては、戦を終えてからだ」

「はい。ですから、無事に屋敷に戻りましょう。みんなで」

 自然と、わたしも笑顔になっていた。

 二人一緒にスリジエさんの背にまたがると、小さくなったネージュさんが、わたしのすぐ前に飛び乗ってきた。トレは小さな足で草地を踏みしめて、胸を張って立っていた。

『それでは、みなで行こうかの。この馬鹿馬鹿しい戦とやらをさっさと終わらせて、のどかな日々に戻るために』

 そうして、スリジエさんはふわりと舞い上がった。



 わたしたちを乗せて、スリジエさんは心持ちゆっくりと飛んでいく。姿は見えないけれど、トレも異空間からわたしたちを追いかけているはずだ。

 けれどしばらくして、ヴィンセント様が声を上げた。

「止まってくれ、スリジエ! ……そこの林に、近づいてくれないか。あの大きな木が生えている辺りだ」

 その言葉に、スリジエさんがふわりと止まった。ヴィンセント様が言ったほうに目をやると、遠くの木々の隙間に人影らしきものが見えた。十人以上はいるだろうか。

『ふむ……追われておるのかの? 追っ手のほうが、ずっと多いようじゃが』

「逃げているのは味方だ。助けたいのだが……手を貸してくれないか」

『それは構わんが……あれだけの人数、さすがにわらわの見えずの霧でも隠し切れんぞ?』

「ならば、俺をここで降ろしてくれ。彼らと合流し、共にブラッドのところに向かう」

「だ、駄目です! その足では!」

 軍の総大将としての責任感、あるいは仲間への責任感からなのか、ヴィンセント様がとんでもないことを言い出した。味方を守りたいのは分かるけれど、今の彼では危険だ。

「俺は行かなくてはならない。俺の配下が危機にさらされている。ならば彼らを守るのが、俺の役目だ」

 ヴィンセント様の声には、少しのためらいもなかった。と、スリジエさんがすうっと下がっていく。林のほうに向かって。

『うむ、その心意気や良し。ならば、わらわが特別に手を貸してやろうかの』

『だったら、おれも本気を出すか。威圧するもよし、軽くひっぱたいてやってもよし。そうすれば追っ手など、簡単に追い返せるな』

 そんなことを話している間にも、追っ手の声がどんどん近づいてくる。それを聞いて、ネージュさんがふふんと笑った。とっても楽しそうな、そんな声で。