不器用なわたしたちの恋の糸、結んでくれたのは不思議なもふもふたちでした

『で、おまえはどうしてこんなところにいるんだ? 戦場にしては、敵も味方もいないじゃないか』

 どうにかこうにかわたしが泣き止んだ後、ネージュさんがほんの少しいらだった声でそう言った。スリジエさんの見えずの霧に改めて全員で入っているので、小声で話すくらいならたぶん大丈夫だろう。

「……奇襲を受けたんだ。俺たちが草原の中ほどに進軍してしばらく経った頃、いきなり地面がはじけ飛んだ」

「あの、地面がぐちゃぐちゃになっていたところですね……」

「おそらくそれは、総大将である俺を狙ったものだったのだろう。俺は爆発に巻き込まれて、吹っ飛ばされた」

『ようそれで生きておったのう。落ちた場所がよかったのかえ?』

「そうかもしれない。爆発の衝撃で気を失って、気がつけば近くの森の中にいた」

 厳しい顔でため息をつきながら、ヴィンセント様が答える。その間も、彼は片足を投げ出したまま座っていた。

「あの、もしかして、足を……?」

「ああ。骨は折れていないが、ひどく痛めてしまった。俺が目覚めた時には人の気配がなくなっていたから、ひとまず身を隠せるところに移動したんだ」

『それが、ここだったということか。確かに、これだけ爆発地点から離れていれば、すぐに見つかることもないだろうな。人間はおれのように鼻がきかないからな』

 得意げに言うネージュさんに、ヴィンセント様が小さく微笑む。それから視線を落として、ふうと息を吐いた。

「できることなら、早く味方と合流したかったのだが……この辺りにも、敵の偵察兵がうろうろしていてな。この足では、見つかるとまずい。そのせいで、中々移動できなかった」

『ただいま。ヒトがいっぱいけんかしてるところ、見つけたよ。ここからもっと北。ずっと北』

 ちょうどその時、周囲の様子を探りにいっていたトレが帰ってきた。明らかに不機嫌な顔をしている。

 そして彼の報告を聞いて、ヴィンセント様の表情も険しくなった。

「北、か……やはり、押されているな。ブラッドはどうしているのか……」

「あ、あの、これ、どうぞ」

 大急ぎで、ブラッドさんからの手紙を差し出す。ヴィンセント様はそれに目を通すと、ぎゅっと口を引き結んだ。

「こうしてはいられない。すぐにみなと合流しなければ」

 そうして岩壁に手をついて、立ち上がろうとする。

「駄目です、まずはその足を手当てしないと」

『手当てが終わったら、わらわが乗せて運んでやる。じゃから少々落ち着け』

『人間の匂いが近づいてきてるな……急いだほうがいいぞ。敵かもしれないからな』

 ネージュさんのその言葉に、緊張が走る。見えずの霧で隠れているとはいえ、気配や物音は隠せない。それに霧の中に入ってこられたら、もう隠れられない。

 持ってきていた荷物を開けて、中から傷薬と包帯を取り出す。ヴィンセント様の足は、足首を中心にひどく腫れ上がっていた。うう、痛そう。折れてないといいんだけど……。

『これ、あげる。薬』

 腫れたところに傷薬をせっせと塗っていると、トレが打ち身に効くという薬草を生やしてくれた。よくもんで、さらに上から貼りつける。仕上げに、包帯をしっかりと巻いた。

「……ありがとう、みんな。一人でないというのは、いいものだな」